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書籍レビュー

【脱成長が地球を救う?】人新世の「資本論」【要約・書評・感想】

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こんにちは、TKです。

 

今回ご紹介する人新世の「資本論」は、「資本主義による無限の成長を求め続ければ、いずれ地球も人も壊れてしまいます。なので、無限の成長を追い求めるのはもうやめましょう。そして、生きていくために必要な電気や水を僕たち市民が管理しあい、資本家からの自立を目指していきましょう」という斉藤さんの想いを書いた本です。

ちょっと長い説明になりましたが、要するに「経済成長やめよう・みんなで生活の基盤を作っていこう」という考えを書いている本ですね。

この資本主義の世の中において、「経済成長をやめよう」なんて、とんでもない発想だと思われたかもしれません。

 

しかし、後ほど詳しく説明はしますが、経済成長を追い求めた結果として、環境や人々の安全が破壊されているという事実があるんですよ。

今はまだ僕たちの生活が破壊されるほどの影響は無いように感じますが、すでに世界のあらゆる地域で環境や人々の生活は破壊されていますし、いずれ先進国にも破壊的な影響が及ぶのは間違いないでしょう。

TK
TK

一応、気温が上昇したことによって台風が増えているなどの影響が日本にもありますが、他の国が受けている影響は、まだまだこんなもんじゃありません。

今回の内容はどこか他人事に聞こえるかもしれませんが、僕たちの生活に関わる重要な課題を扱っています。

最後まで見ていただければ、「僕たちはこれからどう生きるべきか?」という難しい問いに対する答えを見つけることができますので、ぜひご覧ください。

著者:斎藤幸平さんのご紹介

今回ご紹介する人新世の「資本論」を書いたのは、斎藤幸平さんという方です。

斎藤幸平さんは現在、大阪市立大学大学院経済学研究科・経済学部の准教授として勤務しています。

斎藤さんは経済や哲学の分野で研究を進めているのですが、人新世の「資本論」ではその研究結果が主張のベースになっています。

 

具体的に言うと、マルクスという経済学者の考えが本書のベースになっているんですよ。

TK
TK

マルクスはかなり有名なので、名前くらいは聞いたことあると思います。

マルクスというのは、資本論で有名な人ですね。

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後ほど詳しく説明しますが、マルクスはいろんな思考を重ねた結果、最終的に「脱成長コミュニズム」という考えに行き着いており、その考えが今の地球を救うというのが斎藤さんの結論になります。

おそらく今の説明、「何言っているのかよくわからない」と思いましたよね。

「脱成長コミュニズム」という言葉の意味も、全然わからないと思います。

 

そのあたりについては、後ほど詳しく説明しますので大丈夫です。

現時点では、「脱成長コミュニズムというよくわからない思想が地球を救う」とだけ覚えておいて下さい。

ボロボロになる地球と人

斎藤さんの考えを理解するために、まず知っておくべき事実があります。

それは、「経済成長のせいで地球と人がボロボロになっている」ということです。

では、具体的に経済成長がどのように地球や人に対して悪影響を及ぼしているのかを、実例を交えながら確認していきましょう。

気温上昇の悪影響

一番わかりやすいところで言うと、経済成長の悪影響は気温上昇に現れています。

経済が発展すればするほど、必然的にモノを作るための電気も必要になってきますよね。

その電気を生み出すためには、化石燃料をたくさん燃やす必要があるんですけど、その過程で二酸化炭素が排出されます。

 

また、生み出されたモノを使うのにも電気が必要な場合が多いので、さらに二酸化炭素の排出が進んでいくというわけですね。

そうやって二酸化炭素の排出が年々増えた結果、地球の温暖化が進んでいるのです。

そしてその温暖化が、あらゆる悪影響を及ぼしているんですよ。

 

例えば気温上昇によって、北極の氷が溶けちゃうなんて話、一度は聞いたことありますよね。

実は北極の氷には「メタンガス」が含まれているんですよ。

 

メタンガスにも温暖化を進める性質がありますので、北極の氷が溶けると、ますます温暖化が加速するなんてことが言われています。

温暖化が進めば、細菌やウィルスが広まるリスクも高まりますし、ホッキョクグマも生活する場所が無くなっちゃいますよね。

ここまでの話だけだと、なんだか他人事のように感じるかもしれませんが、温暖化の影響は確実に日本にも届いています。

 

わかりやすい影響を言うと、台風の巨大化です。

台風のエネルギー源は、海から発生する水蒸気なんですよ。

温暖化が進めば、当然、水蒸気の量が増えますので、台風もより大きくなっていきます。

 

このように、「経済成長は地球全体に悪影響を及ぼしている」という事実があることを、覚えておいてください。

「ラナ・プラザ」の崩壊

上では主に環境面の悪影響を説明しましたが、経済成長は労働者にも悪影響を与えています。

実例として、「ラナ・プラザ」の崩壊をご紹介しますね。

2013年に、バングラディッシュにある5つの縫製工場が入った「ラナ・プラザ」というビルが崩壊して、なんと1,000人以上の方が亡くなってしまいました。

 

縫製工場というのは簡単に言うと、服を作っている工場です。

つまり、普段僕たちが着ているファスト・ファッションの服を作っている労働者は、実は劣悪な環境で働かされているんですよ…。

さらに、服を作るために使う綿花は主にインドで生産されているのですが、綿花を作る農民も、猛暑や体に悪い除草剤にさらされるという、劣悪な環境で働いているのが現状です。

 

これは目を背けたいことかもしれませんが、日本のような先進国の豊かな生活は、こういった後進国の犠牲の上に成り立っているのが現実なんですね。

グローバルサウスが犠牲になっている

ここで、「グローバルサウス」という考えについて触れておこうと思います。

グローバルサウスというのは、グローバル化によって被害を受ける領域や住民のことです。

例を上げるとするならば、温暖化によって氷が溶けちゃう北極や、ファスト・ファッションの流行によって劣悪な環境で働かされているバングラディッシュ人なんかが、グローバルサウスにあたります。

 

このグローバルサウスのように、悪影響を見えにくいところに押し付けることを、「外部化」と言います。

事実なので何度でも言いますが、僕たちは豊かな生活を維持するために、悪影響を自分たちの生活圏から遠いところに押し付けているんですね。

もちろん、そんな状態が許されるわけがありません。

 

そんな状態を解決するために作られたのが、SDGs(エス・ディー・ジーズ)という国際目標になります。

SDGsはただの幻想

SDGsとは、日本語訳にすると、持続可能な開発目標となります。

要するに、「環境に配慮しつつ経済成長していきましょうね」という考えが軸になった目標と思ってもらえればOKです。

すごく素敵な目標に聞こえますよね?

 

ですが斎藤さんは、このSDGsを「大衆のアヘン」と猛烈に批判しているんですよ。

要するに、SDGsなんてただの幻想っていうことです。

ここは大事な部分なので、詳しく説明しますね。

 

SDGsには、大きく分けて17の目標が設定されています。

  1. 貧困をなくす (No Poverty)…「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」
  2. 飢餓をゼロに (Zero Hunger)…「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」
  3. 人々に保健と福祉を (Good Health and Well-Being)…「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する」
  4. 質の高い教育をみんなに (Quality Education)…「すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」
  5. ジェンダー平等を実現しよう (Gender Equality)…「ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う」
  6. 安全な水とトイレを世界中に (Clean Water and Sanitation)…「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」
  7. エネルギーをみんなに、そしてクリーンに (Affordable and Clean Energy)…「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」
  8. 働きがいも経済成長も (Decent Work and Economic Growth)… 「包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」
  9. 産業と技術革新の基盤をつくろう (Industry, Innovation and Infrastructure)…「強靱(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る」
  10. 人や国の不平等をなくそう (Reduced Inequalities)…「各国内及び各国間の不平等を是正する」
  11. 住み続けられるまちづくりを (Sustainable Cities and Communities)…「包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する」
  12. つくる責任つかう責任 (Responsible Consumption and Production)…「持続可能な生産消費形態を確保する」
  13. 気候変動に具体的な対策を (Climate Action)…「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」
  14. 海の豊かさを守ろう (Life Below Water)…「持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」
  15. 陸の豊かさも守ろう (Life on Land)…「陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する」
  16. 平和と公正をすべての人に (Peace, Justice and Strong Institutions)…「持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する」
  17. パートナーシップで目標を達成しよう (Partnership)…「持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」

引用:Wikipedia

13~15の目標を見ると、「環境に配慮した活動をしてほしい」というメッセージが読み取れますよね。

この目標に沿って、企業はエコバックやマイボトルを作って売るようになりましたし、レジ袋の有料化なんかも進みました。

このような取り組みは、一見、環境が良くなるようなイメージを抱きますよね?

 

ですが斎藤さんは、「そんな取り組みは無意味」とバッサリと切り捨てています。

経済成長と環境破壊はセット

経済成長と環境保全は同時に行うことができない根拠を、電気自動車が環境に与える影響を例として解説します。

電気自動車と聞けば、「排気ガスが出なくなるから環境に良い!」というイメージを抱いているかもしれません。

たしかに、電気自動車は排気ガスを全く排出しないので、「車単体で見れば」環境に良いのは間違いないでしょう。

 

ただし、「電気自動車の製造過程や走行環境」にまで目を向けるとどうなるでしょうか?

実はそこまで考えると、ほとんど環境に良い影響が無いことが明らかになっています。

 

IEAというエネルギーに関する調査をしている国際機関があるのですが、そこの調査によると、2040年までに電気自動車は、現在の200万台から、2億8000万台にまで伸びると推測されています。

しかし、それで削減される二酸化炭素排出量は、わずか1%と予想されているんですよ。

なぜかというと、電気自動車を作る過程や、走行させるのに必要な設備を整えるのに、二酸化炭素が排出されるからです。

 

電気自動車には、巨大なバッテリーが搭載されているのですが、それを工場で作る過程で二酸化炭素は排出されます。

さらに、電気自動車を走らせるためには、充電スタンドを作る必要もありますよね。

その充電スタンドを作るのにも、当然、二酸化炭素は排出されます。

 

このように、トータルで考えると、電気自動車って対して環境に良くないんですよ。

ここでもう一度、マイボトルやエコバックのことを思い出してください。

そうです、マイボトルやエコバックを作るために工場を動かしているので、結局のところ二酸化炭素はガンガン排出されているんですよ。

 

要するに何が言いたいか、それは、「経済成長を追い求めて活動している限り、環境を改善するのは無理」だということですね。

エコっぽい商品も、結局は企業の売上を高めるために作られています。

つまり「経済成長=売上向上のために商品を作る活動」を続けている限り、環境は改善できないというのが、斎藤さんの考えです。

唯一の解決策は「脱成長」

ここまでの解説を見て、おそらくあなたはこう思っているはずです。

悩む人
悩む人

「経済成長=売上向上のために商品を作る活動」を続けている限り、環境は改善できないなら、環境を改善するにはどうしたらいいのよ?

答えはシンプルです。

経済成長をやめればいいんですよ。

ただし経済成長を否定すると、「技術の発展によってエネルギーの効率化が進むから、経済成長はいずれ環境問題を解決するでしょ」という反論があるそうですね。

 

たしかに、技術の発展によってエネルギーを効率よく使えるようになるのは事実です。

ただし、経済成長を追い求めている限り、エネルギーをいくら効率化しても環境は改善されないんですよ。

その根拠を、「ジェヴォンズのパラドックス」という考えを用いて説明します。

ジェヴォンズのパラドックス

「ジェヴォンズのパラドックス」という言葉、おそらく初めて聞く人がほとんどかと思います。

「ジェヴォンズのパラドックス」とは、エネルギーの効率化が進めば進むほど、エネルギーの使用量は増えるという発想のことを言います。

なぜそんなことが起きてしまうのか?

 

それは、効率化が進めばその分、エネルギーをより多く消費する労働環境や商品が生み出されるだけだからです。

では、具体例を見ていきましょう。

 

「ジェヴォンズのパラドックス」は、イギリスの経済学者:ウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズの1865年の著書『石炭問題( The Coal Question )』の中で唱えられた説です。

当時のイギリスは、技術進歩によって石炭の利用が日々効率化されていきました。

しかし、石炭の利用量は一向に減ることがなかったんですよ。

 

むしろ、石炭を効率的に利用できるようになった結果、より多くの労働環境で石炭が使われるようになって、消費量が増加していったのです。

あなたの労働時間も減ってないお話

イギリスの石炭事情にからめて「ジェヴォンズのパラドックス」を説明されても、やや実感がわかなかったかもしれません。

では、あなたの労働時間で考えてみて下さい。

テクノロジーの発展によって、あらゆる仕事が効率化されましたよね。

 

最近で言えば、テレワークの環境も整った結果、通勤時間がゼロになった人も多いと思います。

しかし労働時間はどうなりましたか?

おそらく、毎日8時間は働いていると思います。

 

そうなんです。

いくらテクノロジーが発展しても、あなたの労働時間は減ることは考えられません。

なぜなら、労働時間を減らしたら成長できる可能性が減っちゃうからです。

 

たとえ今までやっていたことが半分の時間でできるようになっても、労働時間を半分にしようという発想にはなりません。

そうじゃなくて、「同じ時間で2倍のモノが生産できるじゃん」という発想になるだけです。

以上の話で、経済成長を軸に働いている限りいくら効率化が進んでも、絶対的な使用量や労働量は減らないことがわかってもらえたかなと思います。

成長しなくても、貧困は解決できる

もう経済成長はいらないと言いましたが、「じゃあ、いまだ貧困に苦しんでいる地域はどうするんだ?」という疑問もあると思います。

たしかに、経済成長によって物質的な豊かさは増えるので、経済成長は貧困を解決するカギとも言えるでしょう。

なのでここで経済成長をストップしてしまえば、「貧困に苦しんでいる地域はずっと貧困に苦しみ続ける」という考えも、理解できます。

 

しかし結論から言うと、もう大して経済成長しなくとも、貧困を解決することは可能なんですよ。

イギリスの経済学者ケイト・ラワースによると、世界中で生産されている食料をカロリーで見たとき、総供給カロリーを1%増やすだけで、8億5000万人の飢餓を救うことができると言われています。

また、電力が利用できないでいる人口は13億人いるのですが、彼らに電力を供給しても、二酸化炭素の排出量は1%増えるだけなんです。

 

さらに、1日あたり1.25ドル以下で暮らす14億人の貧困を終わらせるには、世界の所得の0.2%を再配分すれば足りると結論づけています。

要するに何が言いたいかというと、「経済成長を追い求めなくても、今ある資源の再配分が適切に行われれば、貧困問題を大きく改善できる」ということです。

なぜ資源の再配分が行われないか?

「経済成長を追い求めなくても、今ある資源の再配分が適切に行われれば、貧困問題を大きく改善できる」という結論を見て、こう思いませんでしたか?

悩む人
悩む人

資源の再配分を行えば貧困問題を解決できるのに、なんで再配分をしないの?

理由はシンプルです。

資源が資本家に支配されているから、再配分が行われないのです。

例えば、もしあなたが電気の供給を完全に支配できる権利を持っていたら、どうしますか?

 

当然、電気に値段をつけて売りますよね。

そして、お金が払えない人には電気を供給しないでしょう。

悲しいですが、これが資本主義なんです。

 

資本主義の下では、いくらお金を儲けるかが最大のテーマになります。

そのためには、環境を壊してでも経済成長を求めるし、貧困に苦しんでいる人も無視されるのです。

悲しい現実ですが、まずはこういう現実があるってことを、理解して貰えたらと思います。

  • 経済成長によってエネルギーの消費が増え、地球と人が破壊される
  • 地球と人を救うには、脱成長しかない
  • 資本主義によって、生きるのに必要な資源が資本家に支配されている

 

そして、この現状を救う発想こそが「脱成長コミュニズム」になります。

感の良い人や知識のある人は、この時点で「脱成長コミュニズム」がどういう考えなのかわかっているかもしれません。

とはいえ、意味がわからない人が多いと思いますので、以降で詳しく解説します。

脱成長コミュニズムが世界を救う

まず、そもそも脱成長コミュニズムとは何なのか?というお話をします。

そしてその後に、脱成長コミュニズムという発想に至った経緯ですとか、脱成長コミュニズムがもたらす未来について解説していきますね。

 

すいません、説明し忘れていたので、ここで本書のタイトルにある「人新世」の意味を説明しておきます。

「人新世」とは、人間の活動による痕跡が地球全体を覆っている年代という意味です。

陸を見れば工場や道路で埋め尽くされており、海にはプラスチックなどのゴミが大量に浮遊していますよね。

 

つまり、「人の活動によって、地球が壊れかけちゃってますね」という意味が、「人新世」に込められています。

参考までに。

脱成長コミュニズムとは?

ではまず、脱成長コミュニズムの意味を解説します。

脱成長コミュニズムは「脱成長」と「コミュニズム」の2つの概念が合わさった言葉なので、別々に説明しますね。

 

脱成長は、言葉の通り、「経済成長をやめましょう」という意味です。

なぜ経済成長をやめようと主張するのかと言うと、経済成長を続けている限り環境は改善できないからですね。

 

コミュニズムとは、「生きていくのに必要な富、例えば教育・医療・衣食住などを、資本家に支配させるんじゃなくて、僕たち市民で管理していきましょう」という意味です。

なぜ資本家に富を支配させてはいけないかというと、資本家が富を支配し続ける限り経済成長を追い求める現状は変わらないし、さらに富の再配分が行われず、貧富の差がいつまで経っても解決されないからですね。

ちなみにコミュニズムの語源になっているのは「コモン」という言葉でして、コモンとは、社会的に人々に共有され、管理されるべき富のことを意味しています。

 

つまり脱成長コミュニズムとは、「これからは経済成長をやめて、生きるのに必要な富は僕たち市民で管理していきましょう」という思想のことなんですね。

実はこの「脱成長コミュニズム」は、斎藤さんが独自に考え出した思想ではなくて、マルクスが考え出した思想になります。

マルクスの思想の移り変わり

では、マルクスがどのようなプロセスを経て「脱成長コミュニズム」という発想に至ったかを、簡単に説明しますね。

「資本論」で有名なマルクスですが、実はマルクス、生涯で20冊以上の本を書いているんですよ。

資本論以外では、1848年に出版された「共産党宣言」が有名です。

 

共産党宣言の内容を大雑把に説明すると、「資本主義によって経済が発展していけば、みんなが豊かに生きるための基盤ができていきますよ。そしていずれは、資本家が富を独占することにはなるけど、貧しくなった労働者が革命を起こすから、いつか労働者は解放されるよ」ということを書いています。

要するに、この時のマルクスは、「資本主義の名の下にどんどん経済を発展させて、貧富の差を拡大させちゃおうよ。そうすればいずれ、労働者は解放されるんだから」という楽観的な考えを持っていたわけです。

このように、「経済成長によって、生産力を上げまくっていきましょう。それが最終的に人類を救いますからね」という発想を、生産力至上主義と言います。

 

ただしこの発想は、完全に環境問題を無視していますし、今働いている労働者は犠牲になってもいいみたいなイメージなので、正直、受け入れ難いですよね。

ただマルクスは、この生産力至上主義という発想を、後々捨てることになります。

捨てるキッカケは、1862年に出版された「農芸化学」という本を読んだからなんですよ。

 

その農芸化学の中で、すごくザックリ言うとですね、「資本主義が発展していけば、農地がボロボロになっちゃうよ」という批判が書いてありまして、その批判でマルクスは考えを改めるようになりました。

要するに、「無理に経済発展を進めるんじゃなくて、自然と上手く調和していく必要があるよね」という考えになったんですよ。

この「資本主義が自然を壊しちゃうよね」という考えは、あの資本論の中でも触れられています。

 

その後もマルクスはあらゆる文献を読みあさって、最終的には「不必要な経済成長をしないように、生きるのに必要な富を市民同士で管理することが、持続可能な社会にとって不可欠だ」という発想、つまりは「脱成長コミュニズム」の発想を生み出しています。

ただ、この発想に至ったプロセスはほとんど世に出ていないマルクスのノートや手紙を元にしているので、「このような発想をマルクスは持っていたんだ」と主張したのは、おそらく斎藤さんが初めての人です。

また、「脱成長コミュニズム」の発想に至るまでのプロセスでは、かなりの数の資料と人名が出てきますので、ここで詳細に語るのは、すいません、難しいです。

 

もっと具体的なプロセスを知りたい人は、人新世の「資本論」を読んでください。

まあ、ここでは、「脱成長コミュニズム=これからは経済成長をやめて、生きるのに必要な富は僕たち市民で管理していきましょうという思想」ということだけ押さえてもらえればOKです。

資本家の支配は不要

脱成長コミュニズムを達成するためには、「市民が生活の基盤を自ら管理する」という働きが必要になります。

正直なところ、「そんなことできるの?」と思いましたよね。

僕たちは教育・医療・衣食住などのあらゆる生活基盤を資本家任せにしていますから、自分たちで管理できる気がしない気持ちも理解できます。

 

しかし、僕たちが本気になって管理しようと思えば、どんなことだって管理していくことはできるんですよ。

例として、2019年に世田谷区のある保育園が倒産手続きをした事件についてお話しします。

2019年に経営が悪化したことを理由に、世田谷区のある保育園が破産手続きを行いました。

 

しかし、その保育園を利用していた親御さんからすれば、突然の閉鎖はホントに困る話です。

ただ、資本主義の下では利益が出ないなら撤退するのが当たり前なので、こういうことは普通に起こります。

そこで保育士たちは、「介護・保育ユニオン」という団体の力を借りて、自主営業の道を選択したんですよ。

 

もちろん保育士たちは保育園の運営経験などなかったのですが、結論を言うと、保育園は問題なく運営できました。

ここでお伝えしたいことは、「本気を出せば市民の手でコモンを管理することはできる」ということです。

他にも、バルセロナでは、水・電力・住宅などのコモンを市民の手で管理していこうとする動きが活発に行われています。

たった3.5%が世界を変える

しかし、保育園やバルセロナの例を聞いても、まだどこか他人事で、イメージが湧きにくいかもしれません。

従っておそらく、「脱成長コミュニズムに向けて頑張っている人がいるのはわかるけど、結局は少数の人が取り組んでいるだけでしょ?ホントに脱成長コミュニズムの世界がこの後訪れるの?」という疑問があると思います。

結論から言うと、脱成長コミュニズムの実現は、それなりに期待できます。

 

理由は、「3.5%の人間が行動すれば世界は変わる」からです。

ハーバード大学の政治学者エリカ・チェノウスによると、3.5%の人々が非暴力的な方法で本気で立ち上がると、社会が大きく変わるとされています。

3.5%なら、なんだか可能性があるような気がしませんか?

 

これから先、資本主義によってますます地球と人はボロボロになっていきます。

そうなれば、脱成長コミュニズムを望む人は必然的に増えていくでしょう。

そう考えれば、脱成長コミュニズムのために動く人が3.5%を超えるは時間の問題だと思います。

 

僕も脱成長コミュニズムを望む1人の人間ですので、今後どのような活動が世界で展開されるか、注目したいですね。

脱成長コミュニズムがもたらす未来

いずれ脱成長コミュニズムを求める動きが活発化すると思うのですが、そうなった時、具体的にどのような変化が待ち受けているのでしょうか?

では最後に、脱成長コミュニズムが達成されたときにもたらされる未来、これを3つのテーマに分けてご説明します。

使用価値経済への転換

1つ目の変化が、「使用価値経済への転換」です。

要するに、「意味のある労働をする人が増えますよ」ということになります。

ここで言う意味のある仕事とは、本当の意味で人々の生活を豊かにする仕事のことです。

 

ちょっとイメージしにくいかもしれないので、具体的に意味のある仕事と、意味のない仕事の例を紹介します。

  • 意味のある仕事→介護、農業
  • 意味のない仕事→マーケティング、コンサル

介護や農業は、人々が生活していく上で欠かせない仕事ですので、意味のある仕事ですよね。

マーケティングとかコンサルの仕事は、資本主義の下における価値を創出する仕事なので、本質的には意味の無い仕事と言えます。

もっと噛み砕いて言うならば、「売上を高めるために存在するような仕事」は無くなっていくと言えるでしょう。

 

なぜなら、脱成長コミュニズムの根底は、経済成長をやめることにあるからです。

そう考えれば、当然、売上を高めるための仕事など消滅します。

そして仕事を失った人は、本当に人の役に立つ仕事にシフトしていくというわけです。

労働時間の短縮

2つ目の変化が、労働時間の短縮です。

これは「使用価値経済への移転」の話を聞いた後なら、イメージしやすいと思います。

脱成長コミュニズムが達成されれば、売上を高める仕事をする必要がなくなるので、その分、労働時間は短縮されますよね。

 

まあ、労働時間が短縮されると聞くと、「お金が稼げなくなるじゃん!」という不安を感じる人もいると思います。

そのような不安を感じる人に向けて、脱成長コミュニズムが達成されたときに生じる「資本家の支配の消滅」という話に触れておこうと思います。

先ほども説明しましたが、世界の所得の0.2%を再配分すれば、貧困で困っている14億人を救うことができます。

 

このデータが何を意味しているかというと、「富の再配分が適切に行われれば、大してお金を稼ぐ必要などない」ということです。

「お金を稼がないと生きていけない!」という発想は、まさに資本主義に洗脳されていると思ってください。

資本家の支配が無くなれば、無意味な労働は減り、生きていくのに必要な富も市民で管理されるようになります。

 

そうなれば、生きるために一生懸命働く必要などありません。

なので労働時間が減ってお金が稼げなくなることは、むしろ、僕たちの生活や地球の環境にとって良いことだと思ってください。

やるべき仕事の種類が増える

脱成長コミュニズムが達成されれば労働時間は減りますが、僕たちが取り組む仕事の種類は増えていきます。

理由は、市民の手でコモンを管理運営していく必要があるからです。

この主張を見て、「やる仕事の種類が増えるとかめんどくせー」と思われたかもしれません。

 

しかしその感情こそが、いつまでも資本家に支配され続ける原因とも言えるでしょう。

そもそもなんですけど、なぜ僕たちは1つの仕事に従事しているのでしょうか?

答えは、生産性を上げるためです。

 

そうです、みんなが1つの仕事に従事している状況は、資本家にとって素晴らしいことなんですね。

なぜなら、それぞれが得意なことだけやっていれば生産性が上がり、たくさんの利益を生み出せるからです。

しかし、脱成長コミュニズムは利益など追求しません。

 

そんなんことよりも、「助け合いの精神」を大事にするのが脱成長コミュニズムの考えになります。

市民でコモンを管理することになれば、当然市民同士のつながりが不可欠なのでこの「助け合いの精神」はかなり重要な要素になります。

もちろん、なんでもかんでも助け合えば、自分が得意としないことにも取り組むこともあるので、生産性は必ず落ちます。

 

でも、それでいいんですよ。

「生産性」が求められるのは、資本主義という枠組みの中だけです。

脱成長コミュニズムが目指しているのは、「地球と人のために成長をやめて、コモンをみんなで管理しようね」ということですので、生産性なんて不要なんですね。

 

むしろ生産性を求めるから、地球も人もボロボロになっており、不幸な結果を招いているという現実があります。

やる仕事の種類が増えるのは、一見、すごくめんどくさいです。

しかし「やる仕事の種類が増えることによって、結局は無駄な労働は減るし、地球も救われる」ということを理解してもらえたら嬉しいです。

まとめ

人新世の「資本論」の解説は以上になります。

 

今回の解説で、経済成長を追い求めることによって地球と人がボロボロになっていること、そしてその現状を救うには脱成長コミュニズムが必要だという斎藤さんの想いが伝わっていれば幸いです。

本書は今の世の中を支える資本主義を批判する内容になっていますから、受け入れ難い人もいると思いますし、資本主義が当たり前になっている現状を踏まえると、脱成長コミュニズムという発想を広めるのも難しいと思います。

ただ、素直な感想を言わせてもらうと、斎藤さんの発想に僕は大賛成です。

 

経済成長を追い求めるのはもうやめて、地球の環境や人としての幸せを大事にする世界が来ることを、祈っています。

また、斎藤さんの考えの大枠を伝えるために、省略している話がかなりあります。

さらに詳しく本書の内容を知りたい方は、ぜひお手にとって読んでください。

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では以上になります。

最後まで見ていただき、ありがとうございました!