今回ご紹介するのは、朝井リョウ著の『どうしても生きてる』です。
本書では、あらゆる事象にもがき苦しみながらも生きている人間の心理が鮮明かつ細やかに描かれております。
いやあ、こういう作品が僕はホント好きですね。
人生を生きていると、様々な想いが湧き起こるじゃないですか。
でも、各々の想いを自分の中で整理しきれず、モヤモヤがずっと頭の中に残るんですよ。
本書では、そういったモヤモヤをちゃんと言語化されていますから、読んでいて気分が良くなる感覚があります。
小説はやはり細かい心理描写ができる点がメリットですから、そういう意味で本書は傑作と言えますね。
また、本作品は短編集ですので、短編ごとに感想を書いていきます。
感想
健やかな理論
死んだ人間のアカウント特定して、生死の境目が曖昧なことを確認する女の話が描かれております。
なかなか闇が深いと感じたと思いますが、その通りです(笑)。
世の中には、それっぽい理論を当てはめて、物事を説明する方がたくさんいますよね。
でも、物事って、そんな単純じゃないですよね。
わかったような顔で、生きている人は、この物語を読んだら、はっとさせられるんじゃないでしょうか。
ちなみに僕はわかったような顔で、色々と理論を述べている人が嫌いなので、この作品は好きですね。
流転
幼馴染みと一緒になって漫画を作っていたが、夢で諦めた男の話が描かれております。
これは、自分が信じたものを貫く過酷さを描いた話です。
人間、誰しもが夢を思い描いて、そしてその夢に向かって突き進んだことがあると思います。
でも、その夢は途中で終わってしまい、現実にぶつかっていく人がほとんどでしょう。
その過程で感じる過酷な感情が鮮明に描かれており、同じような経験がある方が見たら、胸がウッてなるんじゃないかなと思います。
文字だけで鬱に陥れられる朝井リョウ、さすがです。
七分二四秒めへ
派遣社員として働く女が、他の派遣社員の動向に関心を持つ話が描かれております。
この話はですね、とても愛おしくて抱きしめたくなります。
世の中には、生きていく上でなんの意味もない情報で溢れていますよね。
でも、そういった情報に生かされている人もいるんです。
日々孤独を感じている方が読んだら、刺さるでしょうね。
僕自信とても刺さりまして、凄く好きな作品と言えます。
風が吹いたとて
人間の弱さ、醜さ、傲慢さがあらゆる角度から描かれた話です。
特に印象に残ったのは、桑原という女です。
桑原は主人公と同じバイト先で働く女なのですが、とにかく醜く傲慢なんですよ。
新人のアルバイトに対してモラルを振りかざして気持ちよくなる描写があるのですが、僕自信、こういう人間が1番嫌いです。
また、あらゆる面でマウントを取ろうともするので、見ていてイラッとします(笑)。
あまりにもクソすぎて爽快感すら覚えるレベルでしたので、そういう意味では読み応えがあると言えるでしょう。
そんなの痛いに決まってる
人が大人になるということの切なさや辛さが滲み出た作品です。
印象にのこる描写がとても多く、読んでいて愛おしくなりましたね。
僕がハッとさせられたのは「普段暮らしている街から物理的に離れれば離れるほど、言葉を選別する脳内の櫛が、その網目をどんどん粗くしているのがわかる」という文言です。
つまり、人って普段は言葉を選別させられているわけです。
言いたいことをそのまま言葉にできることなんて、普通ないですよね。
でも、旅行先なら素直な言葉が出てくるものです。
だから人は旅行をするのかもしれませんね。
「人は正直に生きたい生き物」という当たり前の事実を再認識させられました。
籤
劇場のフロアスタッフとして働く女性が、いくつもよ過酷な状況に直面するという話が描かれております。
この話、心がウッとなる描写が多くて印象に残りますね。
例えばですけど、いつまでもチラシの整理をし続ける劇場のバイトがいるんですね。
でも、チラシの整理以上に重要な仕事が目の前にあるのに、そのバイトはひたすらチラシの整理をするんですよ。
これどういうことかと言うと、視界に入っている重要な仕事をこなす自信が無いってことなんです。
この描写を見たとき、ゾッとしましたね、僕も同じようなことをしてしまうことがあるので。
他にも、人の自分勝手な部分や抗えない運命といった目を背けたくなる描写が豊富な語彙で語られており、非常に読み応えがありました。
さいごに
改めて思いますが、朝井リョウさんは人間の感情を書き出す能力が高すぎますね。
小説を読んでいる感がめちゃくちゃ味わえるので、他の作品もどんどん読んでいきたいです。